日本建築家協会建築年鑑

JIA優秀建築選 2022

JIA日本建築大賞・JIA優秀建築賞

審査委員講評

田原幸夫(審査委員長)/Yukio Tahara (Chairman of the Review Committee)

日本における建築家の“未来への貢献”を信じて

JIA優秀建築選2022には228作品の応募があった。審査委員会としては先ず書類審査によって100作品を選定し、さらに現地審査対象として7作品を選定させていただいた。この中で4月27日の最終公開審査に残った作品は「全薬工業株式会社 研究開発センター」「八戸市美術館」「大阪中之島美術館」「Entô」(以上応募順)の4作品である。これらの作品は、いずれも非常に完成度が高く魅力的なもので、優秀建築賞としては全審査委員、まったく異論が無かった。しかし大賞については委員によって意見が分かれ、公開審査当日、真剣な議論が交わされた。その結果、同時期に完成し、まったく異なるコンセプトで注目された2つの美術館、「八戸市美術館」と「大阪中之島美術館」に、JIA日本建築大賞2022が授与されることとなった。
以下、2022年の日本建築大賞・優秀建築賞受賞各作品について、所感を述べさせていただきたい。

日本建築大賞
・八戸市美術館

この作品は今までの美術館のイメージを大きく変えるものであった。設計者が「ラーニング・センター」と呼ぶように、この美術館は八戸市のこれまでの文化芸術活動をベースに、これからの市民の活動の拠点となる“広場”としての建築である。計画のコンセプトもプロポーザルでの設計者の提案によるもので、八戸市民の多様な活動への大きな期待が込められている。長い時間が経過した将来、この美術館を改めて訪れてみたい。

・大阪中之島美術館

長い構想の年月を経て設計コンペが実施され完成した美術館で、堂島川に面した黒いボックスが、都市の新しいランドマークとなった。強く印象に残ったのは、展示室への観客を巧みに導く、パッサージュと呼ばれる自然光が入る吹き抜けの立体空間である。また敷地の環境に応じて、1、2階を都市に開き、3階以上の展示空間をキュービックな箱の中に納めた設計も見事で、中之島をさらに活性化し、大阪市の未来に貢献することを期待したい。

優秀建築賞
・全薬工業株式会社 研究開発センター

企業の研究所というと、どうしても閉じられた固い建築をイメージしてしまうが、この作品は敷地周辺のランドスケープと一体化し、ラボとオフィスが巧みに合体した、極めて質の高い建築である。また研究所としての性能を確保しつつ、バックスペースや付帯設備にもデザインの完璧さを目指す設計者のこだわりを強く感じた。地域に開かれた研究所として、多摩ニュータウン地区の環境の向上にも大きく寄与していくことであろう。

・Entô

島根県隠岐の島で、官民連携の町おこしで注目を浴びる海士町がクライアントのホテルである。隠岐の島はユネスコのジオパークにも認定された自然豊かな島で、後鳥羽上皇や後醍醐天皇が配流された特別な歴史を持ち、このホテルもそうした島の観光の未来に向けて重要な位置を占める。ホテルは既存の古い宿泊施設の半分を建て替えたもので、 CLTの構造体による大きなガラス開口のデザインが特徴的な、斬新で魅力ある建築であった。

JIA建築賞の意味は、建築としての完成度が極めて高いという作品性だけではなく、人々の生活空間としての都市の未来に如何に貢献できるか、という視点から捉えることも重要であろう。日本建築大賞2022の審査は極めて難しいものであったが、異なるコンセプトのもと、ほぼ同時期に完成した2つの都市の美術館が大賞となった。審査委員の一人として当日の議論を記憶に留め、今後の姿を見守っていきたい。最後に、現地審査対象作品の一つ「星野神社覆殿・本殿」は、伝統構法による木造建築における現代の建築家の貢献として、大きな魅力と可能性を感じた。建築における新築と保存というジャンルの垣根がなくなり、さらに、日本の伝統建築と近現代建築を同じ土俵で議論できる時代が来ることを祈りつつ、審査報告を終えたい。

■田原幸夫
建築家。1949年長野県生まれ。1975年京都大学工学部建築学科卒業。同年日本設計入社。1984年ルーヴァン・カトリック大学大学院「都市と建築の保存修復センター」にてディプロマ取得。2003年~2012年東京駅丸の内駅舎保存復原プロジェクト総括。2014年~2018年京都工芸繊維大学特任教授。日本建築家協会賞、日本イコモス賞、日本建築学会賞(業績)、日本建築士会連合会特別賞、などを受賞。著書に『世界遺産フランダースのベギナージュ』(彰国社、2002年)、『建築の保存デザイン』(学芸出版社、2003年)ほか。現在、京都工芸繊維大学客員教授、東京理科大学客員教授、日本イコモス国内委員会理事。

 

Believing Japan’s architects’ “valid contribution to the future”

There were 228 entries for the 2022 JIA Award for Excellence. The review committee began by selecting 100 works through screening of the application documents, and then chose seven for on-site reviews. From these, four works— Zenyaku Kogyo Co.,Ltd R&D Center, the Hachinohe Art Museum, the Nakanoshima Museum of Art, Osaka, and Entô (listed in order of application)—were selected for the final public review held on April 27. As all of these works were outstanding and demonstrated significant merit, none of the reviewers could object to them being worthy of the Award for Excellence. However, opinions were divided over which should be chosen for the Japan Design Award, and intense discussion took place on the day of the public review. Ultimately, two art museums, which were completed around the same time, stood out for their completely different concepts and were chosen for the 2022 JIA Grand Prix : the Hachinohe Art Museum and the Nakanoshima Museum of Art, Osaka.
Below is a summary of my impressions of the works selected for the 2022 JIA Award.

JIA Grand Prix
Hachinohe Art Museum

The Hachinohe Art Museum defies conventional assumptions about art museums. Just as the designer calls it a “center for learning,” the museum is based on the art and cultural activities that have been carried out in Hachinohe City until today, and serves as a hub for its citizens’ future endeavors. The plan’s concept was also put forth by the designer in the proposal stage, and it reflected the hopes that the art museum would play a big role in the diverse activities of Hachinohe City’s citizens. I am looking forward to visiting the art museum again after many years have passed.

• Nakanoshima Museum of Art, Osaka

Conceived through many years of planning and completed after winning a design competition, the Nakanoshima Museum of Art, Osaka is a black box-like structure facing the Dojima River, representing a new urban landmark. Leaving the strongest impression was its three-dimensional atrium called the “passage,” which cleverly guides visitors through the exhibition rooms and allows natural light to enter the building. The outstanding design takes advantage of its site; floors one and two open onto the city, while floors three and above house the exhibition rooms inside the cubic box structure. I hope this art museum further enlivens Nakanoshima and contributes to the future of Osaka City.

JIA Award
Zenyaku KogyoCo.,Ltd R&D Center

While corporate research centers tend to have an image of being closed off and stark, this facility is an exceptionally high-quality work of architecture, integrating with the site’s surrounding landscape and skillfully combining the laboratory and office spaces. It is easy to feel the finesse of the designer, who sought to ensure the laboratory functions remained intact while also perfecting the design of its back spaces and ancillary facilities. The facility is likely to contribute significantly to enhancing the environment of the Tama New Town district as a research center that is open to the local community.

• Entô

The client’s hotel is located in the Oki Islands of Shimane Prefecture in Ama Town, which has attracted attention for its revitalization through a public-private partnership. Rich in abundant nature and recognized as a UNESCO Geopark, the Oki Islands also possess a unique history as a place of exile for Jõkõ Tennõ Go-Toba and Jõkõ Tennõ Go-Daigo. The hotel will play an important role in the future of tourism for the islands. Around half of the former accommodation facility that stood on the site has been rebuilt for the hotel. The building is innovative and unique, boasting a distinctive design of large glass openings in a CLT structure.

For the JIA awards, it is important that entries are judged not only in terms of their architectural excellence but also from the viewpoint of how they contribute to the future of urban environments as living spaces. While it was exceedingly difficult to select the final winners, in the end, the 2022 JIA Grand Prix went to two urban art museums based on completely different concepts but completed around the same time. As a member of the review committee, I keenly remember our discussions on the review day and will keep watch on these works going forward. In closing, I would also like to mention that Hoshino Shrine Covered Shrine & Main Shrine, which was one of the works selected for on-site review, showed great merit and potential, demonstrating a modern architect’s contribution to wooden architecture built with traditional construction methods. It is my hope that the genre distinctions in architecture of new and preserved buildings fade, and that the time comes when Japan’s modern and traditional architecture can be discussed on a level playing field.

■Yukio Tahara
Architect. Born in Nagano Prefecture, 1949. Graduated from the Department of Architecture, Faculty of Engineering, the University of Kyoto in 1975. Joined NIHON SEKKEI in the same year. Earned a diploma from the Centre for the Conservation of Historic Towns and Buildings, KU Leuven, in 1984. In charge of the Preservation and Restoration of the Tokyo Station Marunouchi Building Project from 2003 to 2013. Became a Project Professor at the Kyoto Institute of Technology graduate school in 2014. Awards include the Japan Institute of Architects Award, ICOMOS Japan Prize, AIJ Prize, and the Japan Federation of Architects & Building Engineers Associations Award. Authored works include “The Flemish Béguinages World Heritage Sites” (SHOKOKUSHA Publishing, 2002), and “Conservation Design of Architecture” (Gakugei Shuppan-Sha, 2003). Currently a Visiting Professor at the Kyoto Institute of Technology, a Visiting Professor at the Tokyo University of Science, and a board member of the ICOMOS Japan National Committee.

松岡拓公雄/Takeo Matsuoka

時代が求めるストーリーのある建築家の作品
「強いものは美しい」

2つの美術館が日本建築大賞に選定された。昨年に引き続き美術館が選ばれたが美術館が有利というわけでは全くない。審査員の間では2作品とも優劣つけ難い建築作品であった。特に審査における評価基準があるわけでもない。評価基準は時代が要請するのかもしれない。現代の環境、パンデミック、自然災害など不安材料は建築へもその影響が浸透してくる。しかしヴィトルヴィウスの三原則「強用美」の原則は揺らいではいない。今「用」は建築のニーズに重きが置かれ社会が求めている。加えて電子化の急激な進化で建築そのものが複合化し変容している。「強」に関してはコンピュータアシストで、人の命を守る構造も自在となる時代である。空間獲得のチャレンジもそれ自体で「美」に繋がる作品も多く見られる。また「美」の基準はどこにあるのか。周辺との調和や環境配慮など様々な表現要素が必要となる中、結果としてのまたは意図しての「美」、これは人によって幅広く捉えられるが、美しさは間違いなく存在する。評価基準はさらにサスティナブル、リジェネレーションなどが重なり複雑だ。そのような状況下で、私の選定の軸はそういった「強用美」であると同時に建築家の情熱と努力が見事に結晶化されているかどうかに選定の焦 点を置いている。今は概して歴史、地域性、まちづくりから編み出したストーリー性、シナリオ性が時代を反映している、あるいは未来を呼び込んでいるとするならばそれは多くの作品の共通ベースになっていると言える。いわゆるコンセプトとして一言では言えないものが選定外の作品にも多く見られる。そこに価値観を置いた結果、今回の大賞が二作品になったと言える。

「大阪中之島美術館」は建築家の野心と力量が随所に溢れた作品である。コンペ時際立っていたストーリーが直球でブラッシュアップ、ディティールや素材に裏付けされ、人と美術品の関係性を追及し、強靭な建築に昇華している。そして本来の正面突破の建築として建築家の意志と使命が貫かれている。一方の「八戸市美術館」はコンペ時に提案した市民によるアートファームのストーリーを実現させ八戸市の新たな文化創造が動き出したことが見てとれた。それを十分に理解させるジャイアントルームは画期的であり確実に胎動している。両者とも美術館としてのプログラムは当然のこととして建築家の付加的な提案が秀逸である。黒と白の対比的なこの二つの美術館からは甲乙つけ難い力量が溢れている。

「全薬工業株式会社 研究開発センター」は組織力にサポートされた民間建築という評価をしていたが空間を体験した際の印象はそれが覆され、敷地のもつ潜在的な力と建築の機能がシンプルに調和し、新たな研究所のプロトタイプを生み出している。研究室からオフィス空間を抜けて外部まで視線が貫かれオフィス天井のルーバーの下面が外の色を拾って美しい。「Entô」は客室は奥行きが浅く間口を広げ床から天井までフルフラットの断熱ガラスを通して海と対峙する設計は圧巻で気持が良い。島ならではのCLTやリモート構法の親自然的な提案はジオパークと呼応し、しまづくりのシンボルとして成功している。建築家のチャレンジ精神と熱意とストーリーが素直に伝わってくる。

選外になった「森の小屋」は森のなかの癒される生活空間として傑作である。テント生活から小屋に変身させ森の息吹を四季を通して堪能できそうだ。森を纏うかのように毅然と存在し何度も体験したい建築だ。「太田アートガーデ ン」は駅前既存の米穀商店の空き家をアート空間として再生を図っている。見どころが多く建築を再生の方向性のひとつに挑戦している。「星野神社覆殿・本殿」は歴史を温存する方法として本殿を伝統工法のボディスーツで包みさらに歴史を積み重ねようという試みがユニークである。

今回も現地視察では見えないものが見えその重要性も再確認した。写真や説明だけではわからない空間体験は必須である。

 

■松岡拓公雄
1952年姫路市生まれ。1976年東京芸術大学美術学部建築科卒業。1978年同大学院修了。1978~86年丹下健三・都市・建築設計研究所。1986~2007年アーキテクトファイブ共同主宰。2007年~アーキテクトシップLLC主宰。 1999~2016年滋賀県立大学環境科学部教授。2016年~滋賀県立大学名誉教授、2016~2023年亜細亜大学都市創造学部教授。専門は環境建築デザイン、都市創造+地域創生、環境再生など。多数の庁舎建設検討委員会、都市景観審議会、コンペ審査などの委員を務める。日本建築学会賞業績賞、グッドデザイン大賞、日本建築美術工芸協会賞、土木学会デザイン最優秀賞など受賞。

 

“Strength Is Beauty”—Works of Architects with Stories to Tell, as Called for by the Times

Two art museums were selected for the JIA Grand Prix. Although last year’s award also went to an art museum, this by no means indicates that art museums have an advantage. The reviewers found it exceedingly difficult to choose which of the two works was superior. We do not have a strictly defined evaluation criteria for our reviews. Rather, our criteria is based more on the needs of the times. Today’s concerns such as the environment, pandemics, and natural disasters have widely affected architecture. However, the three principles of Vitruvius, “utility, strength, and beauty,” have not been shaken. This “utility” is of crucial importance among architectural needs and is demanded by society. In addition, with the rapid advance of digitalization, architecture itself is transforming and becoming more integrated and multifunctional. As for “strength,” with computer assistance, we are now able to easily create structures that protect people’s lives. We also see many works that embody the principle of “beauty” in how they respond to the challenge of using space effectively. Yet how do we define a standard for “beauty”? Buildings now need to incorporate various expressive elements in their design, such as harmony with their surroundings and environmental considerations. While “beauty” can arise as a result of this or by intention, and may be perceived by people in vastly different ways, it undoubtedly exists. Our evaluation criteria includes a range of other overlapping themes, such as sustainability and regeneration, making it somewhat complex. Amid this context, for my own selection standard, I focused on these elements of “utility, strength, and beauty” as well as how well the work embodies the passion and effort of the architect. These days, a common theme among many works is that they are based on a story or scenario that reflects the times or evokes the future while being interwoven with the history, the local character, and urban development. Many of the non-selected works were also based on concepts that could not be summed up in a few words. I believe the Japan Design Award was granted to two works this year because we valued this approach to architecture.
The Nakanoshima Museum of Art, Osaka is a work that overflows with the architect’s ambition and abilities in all aspects of its design. Its “story,” which stood out when it was first pitched in the design competition, has now been directly refined and supported with details and materials, and it has been transformed into a strong work of architecture that pursues the relationship between people and art. With a bold character and appearance, it reflects the architect’s sense of ambition and mission. In contrast, the Hachinohe Art Museum realizes its competition proposal story of being an “art farm for citizens,” revealing the start of a new culture creation movement in Hachinohe City. Its Giant Room, which exemplifies this idea, is groundbreaking and brimming with innovation. The programs of both art museums clearly demonstrate the outstanding additional proposals of the architects. These two contrasting art museums, one black and one white, are full of qualities that are impossible to compare.
I had judged the Zenyaku Kogyo Co.,Ltd R&D Center to be a private sector building backed by organizational strength, but this assumption was overturned when I actually experienced it in person. The potential of the site and the building’s functions have been easily harmonized, presenting a prototype for new research centers. The line of sight extends through the laboratory to the office space and all the way to the exterior, while the bottom surface of the office’s louvered ceiling beautifully reflects the colors from outside. Entô’s guest rooms, which have a short depth but wide width, boast a stunning and liberating design, offering a direct view to the sea through completely flat insulated glass windows that stretch from the floor to the ceiling. Befitting of the island’s Geopark status, this new environmental architecture design incorporates CLT and remote construction methods unique to the island, standing as a symbol for island development. The architects’ passion for challenge and their enthusiasm and the building’s “story” are directly conveyed.
Although it was not selected, Cabin in the Woods is a masterpiece that serves as a healing living space inside a forest. As if a tent has been transformed into a cabin, it allows its users to experience the forest air through the four seasons. With a strong presence, it is a building that is immersed in nature and one that you will never tire of visiting. For Ota Art Garden, the architect has regenerated the vacant building of a former rice store near a train station, transforming it into an art space. With many highlights, it illustrates one way of tackling the challenge of architectural regeneration. Hoshino Shrine Covered Shrine & Main Shrine also demonstrates a unique approach, with the Honden (main hall) protected by a cover built with traditional construction methods to ensure its history is preserved and continued.
The site visits enabled me to see elements of the buildings that I previously had not noticed and to reaffirm their importance. As mere photographs and explanations cannot give a full understanding, actually experiencing such spaces in person is essential.

 

■Takeo Matsuoka
Born in Himeji City, 1952. Graduated from the Department of Architecture, Tokyo University of the Arts in 1976. Graduated from the Graduate School of Architecture, Tokyo University of the Arts in 1978. Worked for Tange Associates from 1978 to 1986. Jointly chaired Architect 5 Partnership from 1986 to 2007. Has chaired ARCHITECTSHIP LLC since 2007. Served as a professor in the School of Environmental Science, the University of Shiga Prefecture from 1999 to 2016. Has served as a professor emeritus for the University of Shiga Prefecture since 2016, and as a professor in the Faculty of Urban Innovation, Asia University from 2016 to 2023. Areas of expertise include environmental architecture design, urban innovation and regional revitalization, and environmental regeneration. Has served as a member of numerous government office building construction review committees and urban landscape councils, and as a judge for many competitions. Awards include the AIJ Prize Practical Achievement Division; Good Design Award; Japan Association of Artists, Craftsmen, and Architects Award; and Civil Engineering Design Grand Prize.

手塚貴晴/Takaharu Tezuka

完全無欠の揃い踏み

全く種別が違う。懐石料理とフルコースフレンチとインド料理とアメリカンが並んでいる状態で理性的な回答など出しようがない。よって「最も優れている作品はどれか?」という回答ではなく、「どの作品が今のJIAのメッセージとして相応しいか?」という、建築家を施主が選ぶ時のような議論となった。大賞とならなかった方々はくれぐれも「優劣で外れたのではない」とご理解願いたい。最終的には審査員一同の時代観が決めた。

八戸市美術館は運営方針の企画から空間構成に至るまで、建築家として成し得る全てをやり尽くした作品と言って良い。明らかに資金は潤沢と言い難い。一昔前であれば「もっと材料の選択はなかったのか?」と気の毒がられそうな程に質素なのである。その境遇であってこそ本領を発揮する建築家なのであろう。全ての虚飾を取り去り自らの欲を顕示せず只管課題に取り組んだ空間の強さが見てとれる。八戸の山車に似て聳え立ち都市を睥睨しているかと思うと、酔っ払いを奨励する地域の飲屋街のように温もりがある。この作品は美術館の定理そのものを揺さぶる作品である。その点が現代的であると言う向きもあろうが、そこに至るまでの絡繰は一朝一夕に組めるものではない。長年の経験と人脈それを可能にした人間性の成せる技である。一歩踏み入れてから出る瞬間まで心の温まる施設である。

大阪中之島美術館は八戸市美術館と対象的な施設である。設計競技の遥か前から美術館の要件は決まっていた。既に大阪が所有している財産の収蔵庫に近い。戦うべくは時間である。人間の寿命を超えて次世代へと作品群を守らねばならない。その重い任務に負けず都市空間を内部空間へと織り上げた力量は秀逸である。「アトリエでありながら大手事務所並みにやりきっている」との評を幾たびか耳にした。しかしそのような偏見に囚われず審査したつもりである。設計者の目地に対する執着は異常と言える。しかし思うのである。たとえこの目地があろうとなかろうと、この建物の本質は変わらない。

全薬工業株式会社 研究開発センターは美しい作品である。ピエール・シャローやカルロ・スカルパに時間と資金を与えればこうなったかもしれないと妄想した。階段の詳細を眺めるだけで1日が過ごせそうである。少々建築マニア向けの作品とも言える。

Entôは遠隔地という不利を逆手にとった禁じ手である。禁じ手というのは、審査員としてどうしても「情」が働いてしまうからである。兼業を自認する職員の言葉も真実味を帯びて迫る。事実であろう。審査の日は悪天候で氷が吹きつけていた。その気候に負けず水辺に屹立し我々は守られていた。審査の場ではあまり強調されていなかったが、水辺に迫り出した基礎構造は設計者の得意とする手法である。

太田アートガーデンは地元の文化を心憎いまでに演出した名場面である。幾度も訪れたい場所である。特に中でもない外でもない不思議な空間が新鮮であった。

星野神社覆殿・本殿の被いは、純粋で美しい作品である。最終に残らなかったのは、大賞という日本の建築界全体を映すには、ビルディングタイプとして無理があったというだけのことである。

森の小屋は内部と外部の比率が快適である。小ささを大きな建物を凌駕する力としている。

長い議論の末に大賞が2作品となってしまった。両作品とも極めて完成度が高く1つに絞ることができなかったからである。これは時代が建築家の職能の分岐点に到達していることを表しているように思う。大阪中之島美術館は伝統的な建築家の職能を全うしている。八戸市美術館は建築家の職能の範囲を大きく広げている。

 

■手塚貴晴
建築家。1987年武蔵工業大学卒業。90年ペンシルバニア大学大学院修了。94年までリチャード・ロジャース・パートナーシップ。94年手塚建築企画を手塚由比と共同設立、東京都市大学教授。日本建築家協会賞、日本建築学会賞、BCS賞、RAIC international 、WAF 他受賞 WAF。ヴェネツィアヴィエンナーレ、カーネギーインターナショナル他。

 

Perfectly Synchronized Step

Two completely different works were chosen. When comparing traditional Japanese kaiseki-ryori cuisine with full-course French or Indian or American cuisine, it is not possible to make a rational judgment. Likewise, when judging works of architecture, it is not a matter of asking “which is the most outstanding work?” Instead, just as clients select architects who can best answer their needs, we discussed which work best embodies the message of today’s JIA. Candidates whose works were not chosen should understand that this was not because they were inferior to others. Ultimately, the reviewers made their decision based on their grasp of the times.

The Hachinohe Art Museum demonstrates the architects’ efforts to achieve everything they could across all aspects of the design, from its operation policy planning to its spatial composition. It is clear that the project did not receive lavish funding. In the past, such a frugal design may have prompted pity and questions like “wasn’t there a greater selection of materials available?” However, the architects have shown their abilities with this work that could only be created under these very circumstances. The space powerfully reveals their ability to focus solely on their objective, doing away with ostentation and the inclusion of personal preferences. While it does tower over the city like the Hachinohe festival float, it also has an inviting feel, like a local bar street where people feel encouraged to drink. It challenges assumptions regarding art museums. While this could be described as a modern idea, by no means could this conclusion have been arrived at overnight. It is a feat of human skill resulting from many years of experience and networking. A warm atmosphere can be felt throughout the entire facility, from the moment one enters to when they leave.

The Nakanoshima Museum of Art, Osaka stands in complete contrast to the Hachinohe Art Museum. The design competition’s conditions for this art museum were set well in advance. The facility needed to be located near Osaka’s existing art repositories and needed to be completed in a short time frame. It was also required to preserve works for future generations. The designer’s ability to meet these difficult requirements and create a structure that harmonizes the internal spaces with the surrounding urban space was exceptional. We often heard this designer’s atelier could rival large firms. However, we still intended to judge the work on a completely objective basis. The designer’s attention to the masonry joints is outstanding. However, I did end up thinking that whether these joints are present or not, the essence of the building would not be changed.

Zenyaku Kogyo Co.,Ltd R&D Center is a beautiful work. I could imagine that a similar building could have been accomplished if Pierre Chareau or Carlo Scarpa were given ample time and funds. An entire day could be spent just gazing at the intricacies of the staircase. The work appears made for architecture enthusiasts.

Entô turns the limitations of its remote location to its advantage, defying the rules by evoking emotion even in us as reviewers. We were moved by the honesty of the employees, who admitted they worked more than one job. There was no pretension in their words. We faced poor weather and hail on the day of the review, but the building defied the elements, standing tall on the shore and protecting us. Although the designers did not emphasize it too much during the review, the foundation structure jutting over the shore truly demonstrated their skill.

Ota Art Garden is an outstanding place that perfectly conveys the local culture. It is a place that you can never tire of visiting. Lacking a clearly defined interior and exterior, the space exhibits a wonderfully fresh atmosphere.

Hoshino Shrine Covered Shrine & Main Shrine is a pure and beautiful work. It was only excluded from the final selection because it was not possible to include its building type as the Japan Design Award seeks to reflect Japan’s overall architectural world.

Cabin in the Woods demonstrated a perfect balance between its interior and exterior. It takes advantage of its small size, surpassing large buildings in its design.

After great discussion, it happened that two projects are awarded for the Grand Prize. Both projects are too good to choose only one. This situation indicates the era is reaching a critical point which way architects has to choose. The Nakanoshima Museum of Art, Osaka represents the traditional type, and the Hachinohe Art Museum expands the role of architects.

 

■Takaharu Tezuka
Architect. Graduated from Musashi Institute of Technology in 1987. Completed a master’s degree at the University of Pennsylvania Graduate School in 1990. Worked at the Richard Rogers Partnership until 1994. Jointly founded Tezuka Kenchiku Kikaku with Yui Tezuka and became a professor at Tokyo City University in 1994. Awards include the Japan Institute of Architects Award, AIJ Prize, BCS Prize, RAIC International Prize, and other awards at the WAF. Participated in the Venice Biennale, Carnegie International, and other exhibitions.

永山祐子/Yuko Nagayama

時代を表す賞

現地審査に残った7作品は規模もプログラムも違う建築であった。その中で唯一、大阪中之島美術館、八戸市美術館は同じ美術館だ。しかし、現地審査、最終審査でも議論があったようにこの2つのプロジェクトは美術館の大きく違う性質を建築表現の中に顕著に際立たせており、そしてその両方ともに大切な役割を担っていた。結果的にはどちらを大賞にするかという議論の中で田原委員長の大きな決断のもとJIA日本建築大賞史上初の2つの作品が大賞として選ばれることになった。私は正直なところ衝撃を受けた。建築はどんなに良い案が2つあろうとも最後は1つが選ばれ、1つしか実現しない。そういう厳しさを賞にも当てはめていたからなのかもしれない。でも賞は違う。手塚審査員の賞はなるべく出した方がいいという発言も印象的であった。田原委員長の言葉の中に全く異なる美術館が2作品出てきたこと自体が今年の傾向であり、それを象徴する意味でも両作品に賞を出すという意図を聞き、改めて賞は後々見返した時にその時代の傾向を留める建築の記録の象徴でもあるということに思い至った。一方で、様々な評価軸が増えた今、大賞を決める難しさを感じた。

文字数の関係上、最終案として印象に残った3作品について現地審査、最終プレゼンテーションの所感を述べたい。

隠岐島のEntôへの現地審査は悪天候のため日程変更を余儀なくされた経緯があったほどになかなか行きにくい場所である。ユネスコのジオパークに認定されたカルデラ湾を望むフェリーの玄関口に建つホテルはフェリーが港に着く前から客室の並ぶ姿が象徴的に見えてくる。離島ならではの輸送、工法を鑑みて緻密に練り上げられたCLTを使った特殊構造の建築。そして漁業農業を半々に職業にしているという島特有の働き方から半官半Xとして公務員が他に職業を持つ働き方を推奨しており、ホテルの従業員もそのような働き方で運営に関わっている。この土地と特性を読み込んで作られた唯一無二の建築であった。特に2次のプレゼンテーションの中で語られていた言葉から、大きな火山岩の上を住みこなして来た人々にとって、鉱物のようにスタンドアローンな強度のある建築は有り方そのものがこの島に呼応した建築になっているのだなと深く納得した。

八戸市美術館は現地審査が2回目の訪問であった。オープニングの時に来館した際、ラーニングセンターを象徴するジャイアントルームが印象的であった。2回目の訪問時にも多様な使われ方を見ることができた。ある場所は展覧会準備室となり、ある場所はワークショップが行われと、あげたらキリがないほど多様である。市営の美術館としての役割を大きく美術を通した学びの場として設定し、学芸員、利用者が自分たちの手で多様な運営ができるように細部にわたりその精神が貫かれている。今後の日本の美術館の役割を大きく問う作品となっている。市営の美術館のみならず今後できてくる様々な運営形態の美術館にどのように影響を及ぼすのかとても興味深い。

大阪中之島美術館も2回目の訪問であった。今回は収蔵庫に至るまで様々な場所を見せていただいた。約2万平米、約6000点の収蔵品、国立美術館にも匹敵するくらいの規模と収蔵数、近現代美術、工芸に特化した収蔵品を今後も増やしていけるよう更なるキャパの収蔵庫を持っている。美術品を分類、保管し、その収蔵品を展示する展示室をもつ。八戸市美術館とは大きく役割が違っている。特に印象的なのは地下から繋がり、収蔵庫、展示室を突き抜けていくヒューマンスケールを超えた中央の巨大な吹き抜けスペース。この空間をエスカレーターで上り、下る体験は時間の層を行き来しているような感覚に陥る。浸水地域でもある場所に高く持ち上げられた黒いボックスに収められた収蔵庫、まるで現代のノアの方舟のような印象を持った。

 

■永山祐子
1975年東京生まれ。1998年昭和女子大学生活美学科卒業。1998年青木淳建築計画事務所勤務。2002年永山祐子建築設計設立。主な仕事、「LOUIS VUITTON 京都大丸店」「豊島横尾館」「ドバイ国際博覧会日本館」「JINS PARK」「膜屋根のいえ」「東急歌舞伎町タワー」など。JIA新人賞(2014)、World Architecture Festival 2022 Highly Commended(2022)、iF Design Award 2023 Winner(2023)など。現在、2025年大阪・関西万博のパナソニックグループパビリオン、「ウーマンズパビリオン」(2025)、東京駅前常盤橋プロジェクト「TOKYO TORCH」などの計画が進行中。

 

An Award That Represents the Times

The seven works selected for on-site reviews all had different scales and programs. Among them, two works were the same type of building: Nakanoshima Museum of Art, Osaka, and Hachinohe Art Museum. However, as was discussed in the on-site reviews and final screening, these two projects have demonstrated vastly different characteristics of art museums through their architectural expression and both fulfill important roles. After much debate about which work should receive the JIA Japan Design Award, Chairman Yukio Tahara made the decisive decision to select two works for this award for the first time. To be honest, I was shocked. When it comes to buildings, even if there are two excellent design ideas, ultimately only one can be chosen and created. Perhaps I was looking at the award from this rigid perspective. However, awards are different to buildings. I was struck by review committee member Takaharu Tezuka’s comment that awards should be given as much as possible. According to Chairman Tahara, the fact that there were two very different art museums was a trend in itself for this year, so it is fitting that both works receive the award. When I reflected afterward, I felt that the award also serves as a symbolic record of architecture that embodies the trends of their times. On the other hand, I realized how difficult it is to decide a winner now that various evaluation criteria have increased.
Due to the word limit, I will briefly describe my impression of three memorable works in the final screening based on their on-site reviews and final presentations.
The Oki Islands’ Entô is a difficult place to reach, so much so that we were forced to change our schedule for the on-site review because of bad weather. The hotel is located by a ferry port and overlooks a caldera bay, which is certified as a UNESCO Geopark. The view from the ferry of the row of guest rooms before one reaches the port leaves a strong impression. The building possesses a distinct and meticulously crafted CLT structure designed in light of the transport and construction techniques required for a remote island. A unique work style is promoted on the island whereby public servants engage in fishing and farming work on the side of their regular jobs. The hotel is operated by employees who also follow such work styles. The building is remarkable, constructed in a way that incorporates the land and its characteristics. From the words spoken in the second presentation, I clearly came to understand that for the local people who live their lives on top of a massive volcanic rock, the sturdy stand-alone building resonates with the island by its very nature, evoking a mineral monolith.
The on-site review marked my second visit to the Hachinohe Art Museum. When I visited for its opening, I was struck by its Giant Room, symbolic of its function as a center for learning. During my second visit, I was able to see how it is used in a diverse number of ways. One area was designated as an exhibition preparation room, while workshops were conducted in another; the options for use were almost uncountable. Established as a place where visitors can learn through art, it serves an important role as a municipal art museum. This is evident in how, In every detail, it has been designed to ensure that the curators and users of the museum can manage it themselves in a wide range of ways. As a work of architecture, I think it truly challenges what we think about the role of art museums in Japan in the future. It will be fascinating to see how it influences not only municipal art museums, but also future art museums with various different management forms.
The on-site review also marked my second visit to the Nakanoshima Museum of Art, Osaka. This time, I was shown a multitude of different areas including its repository. Approximately 20,000 m2 and home to some 6,000 works, the repository boasts a scale and number of collections that rival a National Museum of Art, and it has the capacity to house even more collections focused on modern and contemporary arts and crafts going forward. The museum not only categorizes and stores works of art, but it also has exhibition rooms for showcasing the collections. Compared to the Hachinohe Art Museum, it plays a dramatically different role. The huge central atrium that goes beyond a human scale left a powerful impression, linking the building from underground and connecting the repository and exhibition rooms. As I ascended and descended the escalator, I almost felt as if I was traveling through time. The black box-like building, raised high on flood-prone land and home to the repository, conjured images of a modern-day Noah’s Ark.

 

■Yuko Nagayama
Born in Tokyo, 1975. Graduated from the Department of Human Life and Design, Showa Women’s University in 1998. Joined Jun Aoki & Associates in 1998. Established Yuko Nagayama & Associates in 2002. Main works include the Louis Vuitton Kyoto Daimaru store, Teshima Yokoo House, Dubai Expo 2020 Japan Pavilion, JINS PARK, House with Membrane Roof, and the Tokyu Kabukicho Tower. Awards include the JIA Young Architect Award (2014), the Highly Commended Award at the World Architecture Festival (2022), and the iF Design Award (2023). Current ongoing projects include the Expo 2025 Osaka, Kansai, Japan, Panasonic Group Pavilion and Women’s Pavilion; and the TOKYO TORCH TOKYO TOKIWABASHI PROJECT.

宮沢洋/Hiroshi Miyazawa

建築の可能性を社会に発信する責務

「建築」や「建築家」の可能性を広げるものを選びたい――。
今回で2回目となる審査も、筆者はそんな姿勢で臨んだ。
本業が編集者なので、現地審査対象となった7件の印象を、「どんな可能性を開いているか」という視点で見出しにしてみた。(応募番号順)

・「星野神社 覆殿・本殿」(望月成高:望月建築設計室)
→「宮大工的手法を、構造計算を踏まえた現代的デザインへと展開する可能性を開く」。
・「森の小屋」(佐藤 文、鹿嶌信哉:K+Sアーキテクツ)
→「小規模ローコスト住宅において素材や視界のコントロールにより新たな心地良さの可能性を開く」。
・「全薬工業株式会社 研究開発センター」(頭井秀和、水野悠一郎、チンシャンリン、河野 信:日建設計)
→「迷惑施設になりがちな研究所を快適かつ街に開かれた建築タイプへと変える可能性を開く」。
・「八戸市美術館」(西澤徹夫:西澤徹夫建築事務所、浅子佳英:PRINT AND BUILD、森純平:interrobang)
→「地方都市の公立美術館において“あいまいな領域”を積極活用し地域に貢献する可能性を開く」。
・「大阪中之島美術館」(遠藤克彦:遠藤克彦建築研究所)
→「大都市の公立美術館における積層型大規模美術館の可能性を開く」。
・「太田アートガーデン」(ホルへ・アルマザン:ホルヘ・ルマザン・アーキテクツ + 慶應義塾大学アルマザン研究室)
→「どこにでもある木造住宅を施主好みの数寄屋的な建築へと昇華させる可能性を開く」。
・「Entô(」原田真宏:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO/芝浦工業大学、原田麻魚/野村和良 :MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)
→「CLTを構造に用いた木造建築の可能性と、地方都市において街づくりに寄与するホテル建築の可能性を開く」。

ワンフレーズでまとめるとそんなところか。どれも魅力的な建築ではあったが、「星野神社 覆殿・本殿」「森の小屋」「太田アートガーデン」の3件は、その可能性がオーナーや設計者本人に閉じている感じが否めなかった。結果的にこの3件は、最終の審査から外れた。

最終段階に残った4件のうち、筆者が推していたのは、「全薬工業株式会社 研究開発センター」と「Entô」だった。
「全薬工業株式会社 研究開発センター」は、まず、前面道路から見たときの緑の多さが印象的だ。高い塀はなく、植栽で仕切られているため、一見、敷地内に入れそうに見える。実際は入れないにしても、あやしげなブラックボックスというネガティブな印象はない。そして、室内からの緑の見え方がなんとも気持ちいい。天井ルーバーの反射で屋外の緑を内部に導くという手法が奏功している。実験室からも屋外が見える。
「Entô」の方は、まず、船からの見え方に心をぐっとつかまれた。CLTの大きな版で構成していることが海からもよく分かり、来島者へのウエルカムメッセージとなっている。自治体が企画の中心となり、民間とともに高級ホテルを運営するという先進的なプログラムに、設計者が独特のセンスで応えていて感心した。
どちらも実物を見ないとなかなか良さが分からない建築だ。審査の過程では、どれか1つに票を入れることを求められたため「全薬工業株式会社 研究開発センター」に票を入れた。最後の一押しは、この施設が何ら変わったことをしていないからだ。建築の可能性が“王道”の中にも残されていることにむしろ未来を感じた。
大賞に選ばれたのは、筆者が押さなかった方の2つの美術館だ。どちらも素晴らしい建築である。だが、日本建築大賞が3回連続で美術館というのは、社会に対するメッセージとして少しもったいないのではないかとも思う。「全薬工業株式会社 研究開発センター」と「Entô」も、それらと全く変わらないレベルであったことを申し添えておきたい。

 

■宮沢 洋
画文家、編集者、BUNGA NET代表兼編集長。1967年東京生まれ。1990年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、日経BP社入社。日経アーキテクチュア編集部に配属。2016年~19年まで日経アーキテクチュア編集長。2020年2月に独立。2020年4月から磯達雄とOffice Bungaを共同主宰。2021年5月、株式会社ブンガネット(BUNGA NET Inc.)を設立。著書に『建築巡礼』シリーズ(磯達雄との共著)、『隈研吾建築図鑑』、『はじめてのヘリテージ建築』など

 

A Responsibility to Communicate Architecture’s Possibilities to Society

I wanted to select works which expand the possibilities of architecture and architects. So it was from this viewpoint that I approached my second time as a reviewer.
Also, as I work as an editor, I tried to assess the seven works selected for on-site reviews from the perspective of what sort of possibilities they demonstrate. (In order of entry)

• Hoshino Shrine Covered Shrine & Main Shrine (Shigetaka Mochizuki of Mochizuki Komuten)
→Demonstrates potential with regard to how temple and shrine carpentry techniques can be applied to modern designs based on structural calculations.
• Cabin in the Woods
(Aya Sato and Nobuya Kashima of K+S Architects)
→Reveals new possibilities for comfort in small-scale, low- cost homes through control of materials and the field of vision.
• Zenyaku Kogyo Co.,Ltd R&D Center
(Hidekazu Zui, Yuichiro Mizuno, Chin Shan Lin, and Shin Kawano of Nikken Sekkei Ltd)
→Illustrates possibilities in terms of how research centers, which are often considered undesirable to have in the neighborhood, can be transformed into comfortable buildings that open onto the city.
• Hachinohe Art Museum
(Tezzo Nishizawa of Tezzo Nishizawa Architects, Yoshihide Asaco of PRINT AND BUILD, Junpei Mori of interrobang)
→Demonstrates the potential in actively utilizing less clearly defined areas in public art museums in regional cities to contribute to local communities.
• Nakanoshima Museum of Art, Osaka
(Katsuhiko Endo of Endo Architect and Associates)
→Reveals the potential of a large-scale public art museum with a stacked structure in a major city.
• Ota Art Garden
(Jorge Almazán of Jorge Almazán Architects + Keio University Jorge Almazán Laboratory)
→Illustrates the possibilities in transforming a common wooden home into a building like a tea ceremony house, designed to suit the client’s tastes.
• Entô
(Masahiro Harada of MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO/ Shibaura Institute of Technology, Mao Harada and Kazuyoshi Nomura of MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)
→Reveals the potential of wooden buildings with CLT structures and shows how hotel architecture can contribute to urban development in a regional city.

With these brief descriptions, I have attempted to summarize the works. While all of them were outstanding, I could not help feeling that the potential of Hoshino Shrine Covered Shrine & Main Shrine, Cabin in the wood, and Ota Art Garden was more limited to the owners and designers. For this reason, I did not include these three works in my final review.

Of the four remaining works, I recommended the Zenyaku Kogyo Co.,Ltd R&D Center and Entô for the award.
The abundant greenery seen from the front road of the Zenyaku Kogyo Co.,Ltd R&D Center was remarkable. Rather than using a high fence, vegetation has been used for the perimeter of the facility, making it seem possible to enter the premises at a glance. Although you cannot actually enter the facility, this helps to eliminate the suspicious “black box” image often associated with research centers. The view of the greenery from within the facility is also superb. Reflections on the louvered ceiling effectively guide the greenery from outside into the building. The area outside can also be seen from the laboratories.
As for Entô, I was astonished by the initial breathtaking view from the boat. Like a welcome message to visitors of the island, its structure comprised of large CLT panels is easily discernible from the sea. The local government played a central role in the planning, and I was impressed by how the designers brought their unique sensibilities to the innovative program, under which the high-class hotel is operated together with the local residents.
It is hard to understand what makes these buildings so special unless one sees them with their own eyes. Since we could only vote for one work in the review process, I chose the Zenyaku Kogyo Co.,Ltd R&D Center. Ultimately, this was because I felt that there was nothing overly unusual about the facility. It revealed to me that orthodox architecture still holds possibilities and a path for the future. Although I did not select them, the JIA Grand Prix went to the two art museums. Both were fantastic works of architecture. However, as this marks the third consecutive year that the JIA Grand Prix has been granted to art museums, perhaps we could have better expressed our message to society. I feel that the Zenyaku Kogyo Co.,Ltd R&D Center and Entô easily match these buildings in their architectural merit.

 

■Hiroshi Miyazawa
Illustrated essayist, editor, and BUNGA NET representative and editor-in- chief. Born in Tokyo, 1967. Graduated from the Department of Political Science, School of Political Science and Economics, Waseda University and joined Nikkei Business Publications, Inc. in 1990. Assigned to Nikkei Architecture’s editorial department. Served as editor-in-chief of Nikkei Architecture from 2016 to 2019. Went independent in February 2020. Has chaired Office Bunga jointly with Tatsuo Iso since April 2020. Established BUNGA NET Inc. in May 2021. Authored works include the “Architecture Pilgrimage” series (co-authored with Tatsuo Iso), “Illustrated Directory of Kengo Kuma’s Architecture,” and “Heritage Architecture for Beginners.”